出産を終え、赤ちゃんとの新しい生活が始まると、幸せと同時に戸惑いやイライラ、時には理由のない涙や強い孤独感に襲われることもあります。「ガルガル期」と呼ばれるこの時期は、ホルモンバランスの変化や環境の激変によって心が不安定になりやすいのが特徴です。
本記事では、そんな産後の心の揺れに寄り添いながら、新米ママたちが少しでも気持ちを楽にできる7つの対処法をご紹介します。
ガルガル期とは何か?
出産を終えたママの多くが経験する「ガルガル期」。この言葉は医学的な用語ではなく、産後の一定期間に現れる感情の起伏や防衛的な反応を指す、俗称です。
特に赤ちゃんを守ろうとする気持ちが強くなるあまり、周囲の人に対してピリピリしたり、涙もろくなったりと、普段の自分では考えられないような感情の波に戸惑うママも少なくありません。
ガルガル期は「産後の本能的な防衛反応」
ガルガル期の大きな特徴は、「誰にも赤ちゃんを触らせたくない」「夫の言動に過敏になる」など、周囲に対して攻撃的・防衛的になることです。これは、本能的に赤ちゃんを守ろうとする母性のあらわれといわれています。
この防衛本能は、野生動物にも見られる行動で、出産後の母親が外敵から子を守るために神経が過敏になるのと同じです。特に信頼関係があっても、祖父母や夫などが「敵」に見えてしまうこともあり、本人も「こんなにイライラする自分はおかしいのでは」と悩んでしまうケースもあります。
産後のイライラや涙も“自然な反応”として理解する
産後の情緒不安定は、ホルモンバランスの急激な変化によるもの。妊娠中に増えていたエストロゲンやプロゲステロンが一気に減少し、不安定な気持ちになりやすくなります。そこに、授乳や寝不足、慣れない育児のストレスが重なることで、イライラや涙が止まらなくなることも。
これらは決して「自分が弱いから」「母親失格だから」といったことではなく、心と体の自然な反応です。まずは自分を責めず、「これは誰にでも起こりうること」と理解することが大切です。
ガルガル期が起こる原因は一つじゃない

産後のガルガル期は、単なる性格の問題でも、気持ちの持ちようでもありません。実はその背景には、いくつもの要因が複雑に絡み合っています。ホルモンの変化だけでなく、慣れない育児によるストレスや、社会的な孤立感、周囲の理解不足などが積み重なって、心と体に大きな負荷を与えているのです。
産後ホルモンバランスの急変
妊娠中に高まっていた女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)は、出産と同時に急激に減少します。この急なホルモン変化は、体調だけでなく、精神面にも大きな影響を与えるといわれています。
・涙もろくなる
・ちょっとしたことでイライラする
・理由が分からない不安や孤独を感じる
こうした情緒の乱れは、産後うつの前兆である場合もありますが、ホルモン変動に対する体の自然な反応でもあります。自分を責めず、「これは正常なこと」と捉えることが第一歩です。
育児ストレスと慢性的な睡眠不足
赤ちゃんのお世話は一日中休む間もなく続きます。夜泣きや授乳、おむつ替えといった育児のタスクに追われる日々は、体にも心にも大きな負担を与えます。中でも特に深刻なのが、慢性的な睡眠不足です。
眠れないことに対する焦り、自分だけの時間が持てないことによるストレス、そして何をしていても集中できないという状態が続くと、次第に感情のコントロールが難しくなってしまいます。「ちゃんとやらなきゃ」と完璧を求めすぎると、心も体も限界に近づいてしまうことがあります。
だからこそ、少しでも休める時間を見つけて、自分を労わることが大切です。小さな休息の積み重ねが、育児の中で心のバランスを保ち、回復への大きな鍵になります。
プレッシャーと孤独感が心を圧迫する
「母親なんだから」「ちゃんと育てなきゃ」という言葉は、無意識のうちに新米ママの心に強いプレッシャーを与えます。さらに、頼れる人が近くにいない状況や、育児の悩みを分かち合える相手がいない環境に置かれると、深い孤独感に包まれてしまうことも少なくありません。
「誰にも理解されていない」と感じたり、SNSで他のママと自分を比べて落ち込んだり、「自分だけが取り残されている」という感覚に苛まれたりすることもあるでしょう。こうした心の重荷は、やがて自尊心の低下や自己否定につながり、ますます心を閉ざしてしまう原因になってしまいます。
だからこそ大切なのは、「一人で頑張らなくていい」と自分にやさしく語りかけること。完璧な母親でなくてもいい、弱音を吐いてもいい、誰かに頼ってもいい。そう自分を許すことが、心を守る第一歩になります。
ガルガル期を乗り越える7つの具体的な対処法
つらさの正体がわかっても、「どうやって乗り越えればいいのか分からない」と感じるママは多いものです。そんなときは、自分にやさしく、現実的な対処をひとつずつ試していくことが大切です。
ここでは、今日から実践できる7つの具体的な方法をご紹介します。
まずは「自分が頑張りすぎていること」に気づく
ガルガル期に陥るママの多くは、無意識のうちに「ちゃんとしなきゃ」と自分を追い込んでしまう傾向があります。しかし、育児において完璧な母親である必要はまったくありません。むしろ、今のあなたはすでに十分すぎるほど頑張っているのです。
赤ちゃんが元気でいてくれること。毎日を何とか乗り切っていること。そして、たとえ泣きながらでも育児を続けていること。その一つひとつが、立派な証しです。
大切なのは、「今の自分でも十分に価値がある」と、まず自分自身を認めてあげること。その瞬間から、心は少しずつ回復に向かって歩き始めます。頑張りすぎないこと、自分をいたわることが、何よりの育児の土台になるのです。
パートナーや家族と気持ちを言葉にして共有する
「言わなくても分かってほしい」と思う気持ちは自然なことですが、実際には、言葉にしなければ伝わらないのが現実です。特に、パートナーや家族に気持ちを伝えるときは、感情をぶつけるのではなく、自分の“状態”を冷静に伝えることが大切です。
たとえば、「最近、涙が出やすくてつらい」「寝不足で何をしても集中できない」「ただ話を聞いてくれるだけでいい」といった、一言の共有が、相手の理解や協力を得るきっかけになります。
また、気持ちを言葉にすることは、自分の中のモヤモヤを整理する手助けにもなります。我慢し続けるのではなく、小さな声でも発していくことが、心を守る大きな一歩につながります。
毎日5分でも「自分だけのリフレッシュ時間」をつくる
子育て中は、つい「自分の時間なんてない」と感じてしまうものです。しかし、たとえ5分でも“自分だけ”の時間を意識的に持つことは、心の安定にとってとても大切です。
たとえば、お気に入りの紅茶をゆっくり味わう時間、窓の外をただぼんやりと眺めるひととき、スマホを置いて深呼吸をするだけの時間。そんなささやかな瞬間でも、心は少しずつ落ち着きを取り戻します。
ほんの短い時間でも「この時間だけは自分のもの」と決めて大切にすることが、日々の忙しさの中での心の支えになり、思考を整え、感情をリセットする助けになります。自分を取り戻す時間を、意識してつくってあげましょう。
「家事や育児は完璧じゃなくていい」と許可する
掃除、料理、洗濯……すべてを完璧にこなそうとするほど、自分を追い詰めてしまいます。今は、“赤ちゃんと一緒に過ごすこと”が最優先の時期。完璧を手放す勇気を持ちましょう。
・レトルトや冷凍食品でもOK
・洗濯物がたまってもOK
・掃除は週に1回でもOK
「まあいいか」の感覚が、育児における最良の武器になることもあります。
「これは一時的なこと」と自分に言い聞かせる
今のつらさが、まるで永遠に続くように感じてしまうこともあるかもしれません。でも、赤ちゃんは毎日少しずつ成長していて、今の状況も確実に変わっていきます。「この状態はいつか終わる」と知っているだけで、心はふっと軽くなるものです。
数ヶ月後には、赤ちゃんの笑顔が増えているかもしれません。1年後には、一緒に散歩を楽しむ時間ができているかもしれません。そんな未来をそっと思い描いてみるだけで、今抱えているつらさを少し違う視点で見つめることができます。
先を見つめることは、今を乗り越えるための心の支えになります。つらい日々にも、ちゃんと終わりがあることを忘れずに、自分のペースで歩んでいきましょう。
ママのメンタルケアとして呼吸法やセルフケアを試す
深呼吸や簡単なストレッチなど、体を少しゆるめるだけでも、不思議と心は落ち着きやすくなります。特別な道具やまとまった時間がなくてもできる、手軽なセルフケアの方法です。
たとえば、ゆっくりと3秒かけて息を吸い、6秒かけて吐く腹式呼吸をしてみる。手首や足首を軽く回して、体のこわばりをほぐしてみる。あるいは、ホットタオルで目元を温めて、緊張をやさしくゆるめる。そんなささやかな行動だけでも、体と心はしっかりと反応してくれます。
こうした小さなセルフケアの積み重ねが、日常の中に「自分をいたわる感覚」を少しずつ取り戻すきっかけになります。忙しい育児の合間にも、ひと呼吸置く時間を、ぜひ自分のために作ってあげてください。
心が苦しいときは迷わず医師や支援者に相談する
どうしてもつらいときは、一人で抱え込まず、医師や保健師、育児支援センターなどの専門家に相談することを迷わないでください。
・市区町村の産後ケアサービス
・産婦人科や心療内科のメンタルサポート
・地域の子育て支援センター
相談することは弱さではなく、回復への第一歩です。声に出すことで、「助けを求めていい自分」を受け入れることができるようになります。
パパや周囲の理解がガルガル期を軽くするカギ

ガルガル期のつらさは、ママひとりの努力だけで乗り越えるのが難しいこともあります。そんなとき、パートナーや家族、身近な人たちの理解と寄り添いが、何よりの支えになります。ほんの少しの心がけや声かけが、ママの不安をやわらげ、安心感へとつながるのです。
「なにかしてあげたい」より「話を聞く」ことが支えになる
パートナーとして「何か手伝いたい」「役に立ちたい」と思うのは、ごく自然な気持ちです。でも、ガルガル期にいるママにとって本当に必要なのは、「正解を出すこと」や「問題を解決すること」ではありません。ただ、話を聞いてもらえること。それが、何よりも心の支えになります。
「大変だったね」と共感の気持ちを伝えること。話の途中でアドバイスを挟まず、最後まで耳を傾けること。そして、たとえ言葉がなくても、そばに寄り添っていてくれるだけで、安心感は生まれます。
ママが自分の気持ちを吐き出せる時間と空間があるだけで、心は少しずつ整っていきます。「何かしてあげなきゃ」と頑張るより、「うん、聞いてるよ」という姿勢で寄り添うこと。それが、ママにとって一番の支えになるのです。
「否定しない」「理由を聞かない」対応が信頼に変わる
ガルガル期には、自分でもどうしようもない感情があふれてきて、心が揺れ動くことがよくあります。そんなときに、「なんでそんなに怒ってるの?」「気にしすぎだよ」といった言葉をかけられると、ママの心はますます閉じてしまい、孤独を感じやすくなります。
大切なのは、ママの気持ちにそっと寄り添うこと。「そんなふうに思ってたんだね」と受け止め、「つらいよね」と感情を認めてあげる。理由を問い詰めたりせず、「そう感じているんだな」とそのまま受け入れる姿勢が、ママにとって大きな安心につながります。
感情に正解はありません。否定せず、答えを求めず、ただその気持ちを尊重することで、ママは少しずつ心を開き、信頼を深めていけるようになります。それが、ガルガル期における本当の支え方です。
パートナーが知っておくべき“産後ママの心の変化”
出産後、ママの体だけでなく心も大きく変化しています。ホルモンバランスの急変、育児の重圧、社会との隔たり…。こうした状況は、感情の浮き沈みを引き起こしやすくする背景要因です。
・ちょっとした一言に傷つきやすくなる
・普段なら気にしないことで涙が出る
・「自分だけ頑張っている」と感じやすくなる
こうした変化を知っているだけで、接し方はぐっと変わります。「ママが変わった」のではなく、「状況がそうさせている」と理解することが、パートナーとしての第一歩です。
ガルガル期が長引く・辛すぎるときはどうする?
ほとんどのママが通るといわれるガルガル期ですが、「時間がたってもつらさが和らがない」「育児が苦しいと感じる日が続く」といった場合は、単なる一時的な情緒の乱れではない可能性もあります。自分の状態を知ること、そして早めにサポートを受けることが大切です。
産後うつやマタニティーブルーとの違いに注意
ガルガル期は、主に「赤ちゃんを守らなければ」という本能的な防衛反応が強く表れる時期です。特に、イライラしたり攻撃的になったりといった感情が中心になるのが特徴です。しかし、この状態が長引きすぎたり、「自分には価値がない」と感じるような気持ちが強くなってきた場合は、産後うつの可能性も考えなければなりません。
見極めのポイントとしては、マタニティーブルーは出産後すぐから数日程度続く、一時的な情緒の不安定さであるのに対し、産後うつは「2週間以上続く強い抑うつ感や無力感」が特徴です。
「何をしても楽しいと感じない」「赤ちゃんに対して愛情がわかない」といった状態が続く場合は、迷わず専門家に相談することが大切です。自己判断で我慢するのではなく、早めに適切なサポートを受けることが、回復への大きな一歩となります。心の不調は誰にでも起こり得るもの。助けを求めることは、決して弱さではなく、自分と家族を守る大切な選択です。
放っておかないで!医療機関や支援機関の頼り方
「こんなことで相談してもいいのかな…」と迷ってしまうママは少なくありません。しかし、ガルガル期のつらさは決して“些細なこと”ではありません。気持ちが苦しいときは、遠慮なく助けを求めることが必要です。
サポート先 | 内容・提供される支援内容 |
市区町村の保健センター | 産後ケア、育児相談、育児教室、保健師による家庭訪問など |
助産師訪問・育児相談の窓口 | 授乳・睡眠・体調管理などに関するアドバイスや精神的サポート |
産婦人科・心療内科・メンタルクリニック | 心身の不調に対する専門的な診断と治療、カウンセリングなど |
NPO法人・子育て支援団体 | 電話・メール・オンラインでの相談、地域イベントやママ同士の交流の場の提供 |
特に、産後専門のメンタルサポートを行っている医療機関では、「話を聞いてもらうだけ」でも大きな安心感が得られます。「相談=弱さ」ではなく、「自分と赤ちゃんを守るための選択」と捉えましょう。
まとめ
ガルガル期は、多くのママが経験する自然な心の反応です。しかし、誰かに相談しづらかったり、自分を責めてしまうことで、よりつらさを感じてしまうこともあります。大切なのは、「私だけじゃない」と知り、少しずつ心を休ませてあげること。
パートナーや家族の理解、そして小さなセルフケアの積み重ねが、少しずつ心を軽くしてくれます。もし苦しさが続くようであれば、迷わず専門機関に相談する勇気も忘れずに。あなたの笑顔は、赤ちゃんにとって何よりの安心です。